「寂しいのですか?マスター」

「何だって?ナボ」

「脳波、表面表情、ここ一時間の、マスターの様子、総合しますと、寂しい、という感情の、状態に類似しています」

「壊れたのかい?」

「いいえ。自己診断プログラムに、異常はありません」

「ナボ」

「ハイ。マスター」

「昔、孤児院で育ったんだ」

「マスターの、思い出ですか?」

「思い出は過去のデータで、電気信号のパルスだよ。ごく短い周波の個の歴史だ。それを総じて思い出というファイルに閉じ込める。今のこの瞬間だけの短い電波さ」

「電波は、受信者が、いなければ、成り立ちません」

「空を描いたんだ。大人が好きなものを描いていいと言った。人間はいつから大人っていう人種に成り下がるんだろうね」

「一般的な、範疇では、20歳を超えると、社会人、として税金や選挙権を得られる、大人になります」

「誰が決めたの?」

「データーがありません」

「グレイの空を描いた。猫を、一匹、真ん中に描いたんだ。大人は上手に描けたと褒めてくれたよ」

「わたしには、意味が分かりません」

「それでいい。機械はプログラムされない以上の事に関知しない。それが正しい在り方だ。人間らしくロボットを作る研究者もいるけどね、あれは愚かだよ。ロボットは以上も以下もなくロボットでいい」

「今の会話を、記録しますか?」

「何の為に?」

「思い出の、為に」

「ナボは本当に、語彙が多くなった」

「それは、余計な事、ですか?」

「いいや。嬉しいね。ナボの語彙は誰によって構成されたのか不思議でならないよ」

「主に、マスターと、トーヤと、ヴィーに、よって構成されました」

「そうか。…で、何だっけ?」

「寂しいのか、とお見受けします」

「…後でウィルス検査をしよう。タチの悪いウィルスだ」

「ハイ。マスター」

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