彼は言う。



人間ほど孤独に弱い生物は居ない。

と。

僕は意味がよく理解できなかった。

彼は言う。


人間が生きていく上でもっとも必要なモノとは?


今度は理解できた。
僕は即座に答えた。

水。と。

彼は微笑みながら、

うん。君は正しい。

と言った。


しかし。


と彼は続ける。


しかし、人間に必要なのは水よりも、同族という存在なんだよ。


僕はまた理解できなかった。
彼の言葉に置いてきぼりになり寂しくなった。
脳はフル回転し、声帯は言葉を繋ぐ。
僕と彼を繋ぎとめるように。

人間は水がなくちゃ生きていけないじゃないか。同族が居たって死んでしまったら終わりだ。

彼は言う。

うん。

小さく顎を動かす動作だったが、僕には彼との繋がりを断絶されたかのような気持ちになった。


じゃあ。人間が死ぬ為には何が必要だと思う?


彼は言う。
僕と同じように、僕と彼を繋ぐための言葉を搾り出す。

またもや僕は理解が出来なくなった。思考が付いていかない。彼ほど脳への接続と遮断と切り替えの速さを持っていないからだ。

僕はぽつりと。

判らない。

と言った。

泣きたくなった。今世界中の悲劇がこの身に降りかかろうとも僕のこの悲しみを凌駕する事は出来ないであろう。
僕は悲しくなった。

彼は言う。

いいんだよ、それで正しい。


それは慰み?

彼は言う。


人間が死ぬためにもっとも必要なモノは、孤独だよ。

訳が、判らなかった。

何故?と聞くのも幼稚で馬鹿らしい事に思えるほど彼は呆気なく言い放った。

彼は言う。

この世界で一人になったと想像してごらん。


脳のスクリーンにたった一人の僕が映し出される。
普通の街中。僕はぽつねんと佇んでいる。
一人。

彼は言う。

出来たね。そこには水も食料もある。しかし、君一人だ。
ラジオもテレビも音楽も本だってだってない。
君以外のものと接触するものが一つもない。
想像してごらん。

スクリーンに映し出される僕の姿。

一人。
水は腐るほどある。食料だってある。生きていける。
僕一人だ。

そこには彼もいない。誰も居ない。
ラジオ、テレビ、本、音楽、すべてない。
聞こえるのは風の音。誰の声も沸かない。
当たり前だ。僕は一人なんだ。

彼は言う。

生活していけるかい?

と。


僕は悩んだ。
スクリーンには相も変わらず僕一人だけが映し出されている。


急に波が押し寄せた。

僕は海が嫌いだ。
たくさんの有機物の含まれた水が溢れるわけもなくそこにただある。
それだけで恐怖だ。
それなのにその有機物を含んだ水は押し寄せてくる。

怖かった。

海と同じぐらいにそのスクリーンの映像は怖かった。

僕は素直に、

出来ない。怖い。

と答えた。

彼は言う。


それが答えだ。


僕は理解した。


彼は言う。

人間は水があれば生命を維持できる。しかし、生命を維持するのと生きるとでは大きな違いがある。
それを定義するものは、生きるための意思があるかないかだ。
簡単なことだけれども、理解をするのは難しいことなんだよ。

人間は孤独には耐えられないほど脆く弱い。
寂しい生き物だね。
そこに同族、つまりは話が通じる。あるいは言葉を発する生き物が居ればそれだけで水がなくても生きていけるんだよ。
つまりは意思がある。
それは生命を維持すると言う本能よりも大切な事だ。


僕に理解することが出来た。

僕は、

僕は、


スクリーンに映し出された僕は、彼と楽しそうに笑い、話し、時に怒り、時に泣いた。

そして、倖せのまま死ぬんだ。



○。゜。○゜。

森博嗣センセの「そして二人だけになった」の本より思いついた産物。
タイトルもセンセの本より抜粋です。

森博嗣はィィ!!!!!!
是非とも読んで見てください!!

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