『誰そ、彼は』

真っ黒な影を背負った彼は、誰であっただろう。

 

 

夕闇が辺りを包み、全てを一色に染め上げる。

それは異様な光景で、日常的な光景。

                                                                                        
掴まれた腕が痛い。

黄昏時。

それは暗く重い意味を持って存在する。

                                                                                
目の前に居る男は誰だ?

知っている男だっただろうか?

                                                                                                   
夕日が沈む。

終わる、黄昏時が。

                                                                
『誰そ、彼は』

逢魔が時。

                                                                  
心に、異界への入り口が広がる。
境界が曖昧になる。
誰でも簡単に踏み出せる。

異形の形が広がる。
見える。

攫われる。

                                             
耳が熱い。
鼓動が五月蝿いからだ。
平和な世界が後ろで待っている。
還りたいのに、還りたくない。
目が霞む。
夕日が目に刺さり視界が滲む。
波打つ血の音さえも煩わしい。

                                                                                     
『誰そ、彼は』
 

 

                                                          嗚呼、夕日が沈む。

終わってしまう。
                                                                   

                                                                                                                                     
                                                                                 
掴まれた腕の痛みだけが真実だった。

『誰そ、彼は』
                          

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